2017年8月3日木曜日

秘剣でんぐり返し

まだ日が高い帰り道。学校帰りの青年が一人、だらだらと家路についていた。

梅雨の晴れ間。湿度の高い道でシャツを濡らしながら歩いていた。

学校から家までは歩いて15分。家まであと少し。そうあと少しだというのに…


青年の前には梅雨時の不快指数に挑むかのような格好をした男が不遜な態度で立っていた。

雨合羽のみを纏った男であった。正確にはバタフライマスクで目元は隠していたが。

彼の男性自身は泰然自若なオベリスクの如くそそり立っていた。


変人である。紛うこと無く変人である。


逃げよう。逃げた方が良いに決まっている。しかし意に反して体は動かない。

恐怖と混乱を起こしている。元凶は目の前の拳闘士のような体型の男であった。



「・・・ださい」


声が聞こえた。目の前の男から声が聞こえた。呟くかのような声。



「・・・いてください」


今度は少しはっきりとした声になってきた。だが何を言ってるかはまだ分からない。

混乱している。ようやく自分の状況を把握して、何をすべきか考える余裕が出た。

この場を離れなければならない。そう思った時、今度はハッキリと聞こえた。



「ワタシのスコープを覗いてください」


すこーぷ?僅かな余裕は霧散した。あまりに現実味がない台詞が聞こえたからだ。


スコープってなんだ?


目の前の男がくるりと反転して、その臀部を突き出してきた。

接眼レンズがあった。肛門に接眼レンズが埋まっていた。意味が分からない。何が起こっているのか?脳が死にそうである。



『待ちなさい!そこまでよ!』


急に声が聞こえた。若い女の声である。ドコかから聞こえてきた。

目の前の変人も狼狽えた様子を見せている。


ふと気がつくと、変人の背後に梅雨時には似つかわしくないコート姿の女がいた。

コートからすらりと伸びた生足。生足?そして足元には水溜り。水溜り?

「どなたですか?」

変人が声をあげた。落ち着いた声音。だが語尾に揺れが生じる。動揺している?


しかし、女は変人の問いを無視して青年に声をかけた。

『キミ、早く家に帰りなさい。アンパンマン始まっちゃうぞ?』


青年はアンパンマンなんて見ていない。この人なんなんだろう?そう思ったが、確かに逃げるなら今だ。

青年は逃げた。


「どなたですか?失礼なのでは?」

変人は澄んだ声音で言った。
いや、失礼なのはオマエだろ。青年は変人の台詞に心の中で反論した。


『私はあなたのような変人から市民を守る者。』


そんな人いたのか?青年は女の発言に驚きながら、そろそろと後退していた。


「ワタシが変人?失礼ながらあなたも変人とそう変わりない存在に見えますがね。」

変人が涼しげに返した。しかし、その涼しげな声音とは裏腹に獣臭が漂い出した。この場はこれより死地に到る。そんな臭いだ。


『私はあなたとは違う。私はヒロイン…とでも言っておきましょう。』


「ヒロイン?ヒロインには見えませんがね。コート姿のお嬢さん。」


『私はヒロイン。私は変人に常識的な一撃を見舞う者。名前は【見られる快感で溢れ出しちゃうレディ】!』





あー、あの水溜りってそういう…

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